同一労働同一賃金関係の裁判例まとめ(詳細版)
裁判例まとめ詳細版をグーグルドライブで共有しました。
同一労働同一賃金関係の裁判例まとめ(簡易版)
自分用に作った同一労働同一賃金関係の裁判例まとめ(最高裁は言及された項目のみ記載)
詳細版をどうやってブログに掲載するかは検討中です。
訂正等があれば野田までご連絡ください
事件名 | 裁判所及び日付 | 掲載誌 | 不合理性が肯定されたもの |
不合理性が否定されたもの |
ハマキョウレックス(差戻審)事件 | 大津地裁彦根支部判平成27年9月16日 | 労判1135号59頁 | 通勤手当 | 無事故手当 作業手当 給食手当 住宅手当 皆勤手当 家族手当 定期昇給 賞与 退職金 |
ハマキョウレックス(差戻審)事件第二次控訴審 | 大阪高判平成28年7月26日 | 労判1143号5頁 | 無事故手当 作業手当 給食手当 通勤手当 |
住宅手当 皆勤手当 |
ハマキョウレックス事件上告審 | 最判平成30年6月1日 | 労判1179号20頁 | 無事故手当 作業手当 給食手当 皆勤手当 通勤手当 |
住宅手当 |
長澤運輸事件 | 東京地判平成28年5月13日 | 労判1135号11頁 | 基本給 能率給 職務給 精勤手当 住宅手当 家族手当 役付手当 超勤手当 賞与 |
なし |
長澤運輸事件控訴審 | 東京高判平成28年11月2日 | 労判1144号16頁 | なし | 基本給 能率給 職務給 精勤手当 住宅手当 家族手当 役付手当 超勤手当 賞与 |
長澤運輸事件上告審 | 最判平成30年6月1日 | 労判1179号34頁 | ・精勤手当 ・超勤手当(精勤手当が割増賃金の計算の基礎に含まれていないことから不合理性を肯定) |
基本給 能率給 職務給 住宅手当 家族手当 役付手当 賞与 |
東京メトロコマース事件 | 東京地判平成29年3月23日 | 労判1154号5頁 | 早出残業手当の割増率 | 本給 資格手当 賞与 住宅手当 退職金 褒賞 |
東京メトロコマース事件控訴審 | 東京高判平成31年2月20日 | 労判1198号5頁 | ・早出残業手当の割増率 ・住宅手当 ・退職金(正社員の4分の1) ・褒賞 |
本給 資格手当 賞与 |
日本郵便(東京)事件 | 東京地判平成29年9月14日 | 労判1164号5頁 | ・年末年始勤務手当(8割) ・住居手当(6割) ・夏期冬期休暇 ・病気休暇 |
・外務業務手当 ・早出勤務等手当 ・祝日給 ・夏期年末手当 ・夜間特別勤務手当 ・郵便外務・内務業務精通手当 |
日本郵便(東京)事件 控訴審 |
東京高判平成30年12月13日 | 労判1198号45頁 | ・年末年始勤務手当(全部) ・住居手当(全部) ・夏期冬期休暇 ・病気休暇 |
・外務業務手当 ・早出勤務等手当 ・祝日給 ・夏期年末手当 ・夜間特別勤務手当 ・郵便外務・内務業務精通手当 |
日本郵便(東京)事件上告審 | 最判令和2年10月15日 | 裁判所ウェブサイト | 年末年始勤務手当 夏期冬期休暇 病気休暇 |
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産業医科大学事件 | 福岡地裁小倉支部判平成29年10月30日 | 労判1198号74頁 | なし | 基本給 |
産業医科大学事件控訴審 | 福岡高判平成30年11月29日 | 労判1198号63頁 | 基本給(月3万円) | なし |
学校法人大阪医科薬科大学事件 | 大阪地判平成30年1月24日 | 労判1175号5頁 | なし | 賃金・賞与 年末年始等の休日の賃金支給 年休の日数 夏期特別休暇 私傷病による欠勤時の手当 医療費補助 |
学校法人大阪医科薬科大学事件控訴審 | 大阪高判平成31年2月15日 | 労判1199号5頁 | 賞与(6割) 夏期特別休暇 私傷病による欠勤時の手当 (満額1月分、休職手当2月分) |
基本給 年末年始等の休日の賃金支給 年休の日数 医療費補助 |
学校法人大阪医科薬科大学事件上告審 | 最判令和2年10月15日 | 裁判所ウェブサイト | 夏期特別休暇 | 賞与 私傷病による欠勤時の手当 |
日本郵便(大阪)事件 | 大阪地判平成30年2月21日 | 労経速2338号3頁 | 年末年始勤務手当 住居手当 扶養手当 |
外務業務手当 早出勤務等手当 祝日給 夏期年末手当 郵便外務業務精通手当 |
日本郵便(大阪)事件控訴審 | 大阪高判平成31年1月24日 | 労判1197号5頁 | ・5年を超えて勤務している者に対する年末年始勤務手当 ・5年を超えて勤務している者に対する祝日給 ・5年を超えて勤務している者に対する夏期冬期休暇 ・5年を超えて勤務している者に対する病気休暇 ・住居手当 |
外務業務手当 早出勤務等手当 夏期年末手当 郵便外務業務精通手当 扶養手当 |
日本郵便(大阪)事件上告審 | 最判令和2年10月15日 | 裁判所ウェブサイト | 年末年始勤務手当 年始勤務に対する祝日給 扶養手当 夏期冬期休暇 |
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井関松山ファクトリー事件1 | 松山地判平成30年4月24日 | 労判1182号5頁 | 物価手当 | 賞与 |
井関松山ファクトリー事件2 | 松山地判平成30年4月24日 | 労判1182号20頁 | 家族手当 住宅手当 精勤手当 |
賞与 |
日本郵便(佐賀)事件 | 佐賀地判平成29年6月20日 | 労経速2323号30頁 | なし | 基本賃金 通勤手当 割増賃金 非番日勤務の割増率 祝日給 早出勤務等手当 外務業務手当 賞与 作業能率評価手当 特別休暇 |
日本郵便(佐賀)事件 控訴審 |
福岡高判平成30年5月24日 | 裁判所ウェブサイト | 特別休暇 | 基本賃金・通勤手当 祝日給 早出勤務等手当 夏期・年末手当(賞与) 作業能率評価手当 外務業務手当 |
日本郵便(佐賀)事件上告審 | 最判令和2年10月15日 | 裁判所ウェブサイト | 夏期冬期特別休暇 |
LIBRA 2020年11月号 近時の労働判例(最判令和2年7月14日)について
LIBRA 2020年11月号に判例評釈を寄稿致しましたので、紙幅の都合上書ききれなかった事項の補足や、書きながら考えたこと等について適宜コメントします。
取り上げた判例は、最判令和2年7月14日で、平成18年頃に大分県教職員選考試験において贈収賄を伴う不正が行われた事件に関するものです。県が不正行為によって不利益を受けた志望者に対して支払った賠償金について、不正に関わった公務員に対して、国家賠償法1条2項に基づいて求償請求をするという住民訴訟です。
評釈本編はこちらをご覧くださいhttps://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2020_11/p26-27.pdf
1 登場人物の整理に関する補足
この判例は、一審→第一次控訴審→第一次上告審→差戻控訴審→第二次上告審という過程を経ていますが、求償額の算定方法を含めて一連の裁判の内容を理解するにあたっては、どの年度の不正に関わったのかという視点から登場人物を整理する必要があります。
Kは、第二次上告審を中心に取り扱った上記評釈では全く言及しておりませんが、求償債務を弁済しているので、求償額算定に当たっては、考慮に入れる必要があります。
(1)平成19年度試験の不正に関与
①平成19年度試験教育審議監 A
退職手当3254万5896円返納
求償債務195万3633円弁済
②市立小学校教員夫妻 BC
100万贈賄
求償債務44万4687円弁済
(2)平成20年度試験の不正に関与
①市立小学校教頭 D
400万贈賄
求償債務20万8648円弁済
②県教委義務教育課人事班副主幹(平成20年度試験時) K
平成20年度試験の得点集計事務及び試験成績一覧表の作成を担当し、得点改竄
求償債務187万2520円弁済
(3)両方に関与
① 県教委義務教育課人事班主幹→県教委義務教育課人事班課長補佐(総括) E
求償債務弁済前に死亡
② 義務教育課長→県教委教育審議監 F
求償債務弁済前に破産・免責許可決定
2 第一次上告審の意見について
第一次上告審には、山本裁判官による意見が付されています。不正被害者の早期救済や県財政の負担軽減を目的としてなされたものと思われる第一寄付金を、求償義務の減額、すなわち不正に関わった元公務員の救済に使うことが許されるのかという点について、疑問を投げかけるものです。
大変興味深い指摘ですが、差戻審以降では特段言及されていません。
3 共同や故意の意義についての補足
第二次上告審では、複数の公務員が共同して故意によって違法に他人に損害を与えた場合、国家賠償法1条2項による求償債務は連帯債務になることが示され、これにより、Aが、EやFと連帯債務者の関係になり、両名の無資力リスクや回収リスクを負うことになりました。なお、最高裁は、BCDについては、当事者から上告受理申立理由が記載された書面が提出されなかったことから、実体に立ち入った判断をしていません。
AEFの三名は、いずれも試験を執り行う公務員として、実際に得点の改ざんをしたり、指示をするという不正行為を行っているので、これらの者については比較的容易に共同性や故意を認められるでしょう。一方で、BCDのように、贈賄をしたものの点数改竄を直接行っているわけではなく、また、賄賂にかかる公務を執り行う担当者でもない者について、共同して故意によって違法に他人に損害を与えたと認定される余地がないのかについては、事例の蓄積を待つ必要があろうかと思います。
例えば以下の(1)から(4)の架空の事例について、贈賄した公立校の教員の共同性や故意が認められるのか否か、どのように考えるべきでしょうか。特に、自身の子どものが不合格になることや、これを合格させるとその代わりに不合格になる者が生じることを認識している(4)の例については、共同性や故意が認定されてもよいように思われます。
(1)公立校の教員が、試験実施前に、実力勝負でも合格可能性が十分ある子どものために、教育委員会職員に贈賄し、合格点に達しなかった場合便宜を図るよう依頼した。
(2)公立校の教員が、試験実施前に、おそよ合格見込みのない子どものために、教育委員会職員に贈賄し、合格点に達しなかった場合便宜を図るよう依頼した。
(3)公立校の教員が、試験実施後採点前に、子どもから試験が難しかった旨相談を受けて、教育委員会職員に贈賄し、合格点に達しなかった場合便宜を図るよう依頼した。
(4)公立校の教員が、結果発表直前期に懇意にしている教育委員会職員から、自身の子どもが不合格になる見込みであることを知らされたため、贈賄して合格させるように依頼した。
4 公務員の採用と民間企業の採用の対比についての補足
公務員の採用は、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行うものとされており、いわゆる縁故採用等は法律上排除されています(国家公務員法33①、地方公務員法15)。また、公務員の新規採用は、法律や条例で定められた定員の欠員補充という形で行われるため、一人不正行為によって採用すれば、本来採用されるはずだった者が一人不採用になりますので、不正行為と損害との因果関係が明瞭です。
一方で、民間企業の採用では、採用の自由が幅広く認められており(三菱樹脂事件 最大判昭48.12.12 民集27-11-1536等)、コネ入社も特段禁止されていません。採用人数についても企業が任意に定めることができます。そのため、採用に当たって何等かの差別が存在するような場合はさておき、彼が不正に採用されたために私が不採用になったという事例が生じる可能性は低いように思われます。
この部分が、本判例評釈で最も労働法らしい内容だったのですが、紙幅の都合上、全部カットになりました。
5 その他
登場人物の伏せ字が、裁判所のウェブサイトで公開されている第二次上告審の判決全文と、判例秘書掲載の下級審とで異なっていたのが最も大変でした。